今は「youtube」や「Facebook」などで、テニスの動画が世の中に凄まじい勢いで拡散されています。意図は様々ですが、中には「テニスを動画で上達させよう!」という取り組みをされている方も少なからず見受けられます。
ストロークやサーブ、テニス上達のコツなどを紹介するレッスン動画やプロのスーパープレー集、有名選手の練習風景など、いつまで観ても飽きないものです。個人的にガエル・モンフィス選手のスーパープレー集は本当に観ていて面白いです。
インターネットを通じてテニスの魅力がどんどん世へ発信されるのは、1テニスファンとして嬉しいです。そして、そういった発信力を利用したものの中で「テニスを動画で上達させる」という取り組みかと思います。
プロをはじめとする上手い選手の練習風景や試合での打ち合いなどをキャプチャしたりされていますが、「実際のところテニスは動画で上達できるのか?」。今回はその真相についてお話します。
結論から言うと「テニスの上達は動画だけでは難しい」と言えます。動画で上達させるという取り組みを否定するわけではありませんが、動画を観るだけでテニスが上達すれば苦労はないです。
勿論、自分のイメージアップや勉強になるヒントがたくさん詰まっているのは間違いありません。ですが、動画だけでテニスが上達すれば世の中のテニススクールが存在する意義を失ってしまいます。場合によっては、かえってテニスが下手になってしまう危険もあるのです。
それでは、「テニスを動画で上達させる」という取り組みの、メリットとデメリットをピックアップしていきます。
【テニスを動画によって上達させることは不可能ではない】映像を使うメリット
テニスを動画で上達させるのは難しいですが、もちろん動画を観ることによって得られるメリットも存在します。あくまで「動画だけで上達させるのは難しい」ということであって、むしろ電車の中などの空き時間で、テニスの動画を観るということ自体は有効と言えます。
テニスを上達させる為、オンコートでの練習以外の時間も、テニスの為に有効活用する手段としては有意義なものです。まずはテニスの上達において、動画を観ることで得られるメリットをご紹介します。
1.自分のテニスのセルフイメージが上がる
プロや上手い人の試合を観戦すると、「自分も練習したい!」と思う時はありませんか?この状態はテニスに対してポジティブな捉え方ができる状態です。ストレスも溜まりにくく、よりテニスに集中しやすい精神状態です。
また、上級者は一見簡単そうにテニスをしているように見えます。フェデラーのような芸術的なフォームや、ナダルの人間離れした脚力、モンフィスの変幻自在なスーパーショットなどなど、一流選手のプレーは動画で観ているだけでもセルフイメージを高めることができるのです。
2.無意識レベルで動画において使われている戦略パターンを記憶する
「テニスを上達させるため」には通常、思考力を使う必要はありません。しかし、「テニスの試合で勝つため」には頭を使う必要があります。試合とは駆け引きなのです。プロの試合でも、私達一般人の想像を超えるような読み合いが行われており、相手から確実にポイントを奪うための戦力を、あの高速ラリーの中でも試行錯誤しているのです。
そういった試合の動画を観ていると、不思議と覚えようと意識することなく試合展開をインプットできるのです。そうすると実際に自分自身が試合したときに動画で観たのと同じような展開になったとき、素早い判断で的確なコースを突くことができます。
3.選手の分析力が向上する
テニスの試合を観戦し続けていると、「あれ、さっきからこの選手はバックサイドの低い球を処理できてないな」、「ポジションが後ろのときはスピンボールを多用してるな」、といった、分析力が自然と身についてきます。
試合で勝つためには、対戦相手の苦手なショットや弱点を分析するのは重要です。特に初中級者レベルだと対戦相手云々ではなく、自分のテニスを気にする傾向があるので、ときには他人の試合を観て、戦術などを研究することでテニスの幅が広がります。
このように、動画はテニスを上達させるよりも、どちらかというと試合で勝つ、「テニスを強くする」手段の1つとして有効と言えます。
一方で動画はテニスの上達を阻害する危険も?デメリットまとめ
どうせテニスをやるなら勝ちたいと考えるのが自然です。そして、テニスの動画を観ることによって得られるものは様々あります。ですが、テニスの動画は場合によってはあなたのテニスの上達を阻害する危険性があるのです。
全く同じ動画をA君とB君が観ていたとしても、A君とB君の捉えどころが違っていると、動画を観たうえでの学びや気づきなども全く別物になってくるわけです。その捉え方が間違っていると、かえってテニスが下手にもなる場合があります。
なので、次はテニスの動画を観ることで上達を図る危険性をお話します。毎日のようにテニスの動画を観ている方は一度注意して読んでみてください。
リスク1.動画に洗脳される
人間は外界におけるほとんどの情報を「視覚」を使って取り込んでいます。五感の中でも、視覚が捉える情報量は特に膨大です。テニスの動画を観ること自体は何ら問題はないのですが、「好きな選手のフォームや打ち方をマネするために動画を観る」ときは注意が必要です。
一体何が起こるのかと言うと、動画に悪い意味で洗脳されてしまいます。同じ動画を観続けていると自分自身のテニスのイメージも固定されてしまい、一度調子が悪くなったりするとどうしても悪循環を抜け出すのに時間がかかってしまうのです。
プロの打ち方などを意識する場合、動画はあくまで参考程度の感覚で観察しましょう。身体の細かい動きなどを、一々停止してまで確認する必要はありません。細かい動きを観ていても実際に同じボールが飛んでくることはないので、部分的なフォームだけを完璧にマネしても飛んでくるボールが別のものであればタイミングがズレてミスをして終わりです。
リスク2.理想と現実のギャップにより苦しむことになる
上手い人のプレーを観ているとセルフイメージも高まり、「今なら上手く打てる気がする!」という精神状態になりやすいです。この精神状態は決して悪い状態ではなく、集中力も高まります。
ただ、ここで注意すべきポイントは自分のテニスに対して「過度な期待はしない」ことです。「自信と過信は紙一重」という言葉があるように、テニスの動画を観て高まった自身のセルフイメージを決して過信してはいけません。
動画を観ただけでは、あくまでセルフイメージが上がっているだけに過ぎず、実際に技術レベルが上がっているわけではありません。自分自身のレベルを誤認しないように注意する必要があります。
リスク3.自分の本来のフィーリングを見失う危険性がある
これが最も厄介なデメリットです。あなたにとっての最適なフィーリングはあなただけのものです。動画に洗脳されるのと通ずるのですが、上手い人の打ち方などをスロー再生した動画などを観て研究し過ぎると、自分本来のフィーリングを見失ってしまいます。
あなたのベストなフィーリングは言語化することが難しく、あなたにしかわかりません。テニスの動画に夢中になりすぎると、テニスが路頭に迷い、結果的に上達から遠ざかってしまうことになるのです。
まとめ
参考にする程度であれば、テニスの動画を活用するのは有効です。ですが、「テニスを動画で上達させる」のには無理があります。あくまであなた自身のテニスを見つける為の参考材料として捉えて、のめり込み過ぎないように注意しましょう。
結論としては、テニスの動画は戦術パターンや対戦相手の分析などで勝率を高める、つまりテニスを”強くする”ことは可能ですが、”上達させる”ことは難しいと言えます。